経口摂取ができない状態が2週間以上続く場合、中心静脈栄養から高カロリー輸液の投与が考慮されます。
エルネオパNFなど糖・アミノ酸・ビタミン・微量元素が含まれる高カロリー輸液があり頻用されています。
しかし、糖とアミノ酸だけでなく、脂肪も投与する必要があり、イントラリポスが使用されます。
エネルギー源の観点から考えると、糖とアミノ酸は1gあたり4kcalですが、脂質は1gあたり9kcalと高カロリーであり重要なエネルギー源となります。
イントラリポスの添付文書には「3時間以上かけて点滴する」とあります。
しかし、点滴時間が長すぎても短すぎても様々な問題が生じることがあり、適切な投与速度で点滴することが必要です。
イントラリポス輸液の特徴
ヒトはリノール酸やリノレン酸などの必須脂肪酸を体内で合成できないため、経口摂取できない場合は、これらを点滴で投与する必要があります。
イントラリポスは大豆油由来の脂肪乳剤で、必須脂肪酸であるリノール酸やリノレン酸を約60%含んでおり、1981年に10%イントラリポスが発売されました。
10%と20%の2種類の濃度がある
イントラリポスには10%と20%の2種類の濃度の製剤があります。
10%は250mLの製剤しかありませんが、20%は50mL、100mL、250mLの3種類が発売されています。
20%は3種類の液量のものがありますが、250mL製剤を使用している施設が多いのではないでしょうか。
カロリーは脂質1gあたり9kcalですので、計算上は10%250mL 1本では、225kcal、20%250mL 1本では450kcal投与できます。
添付文書には10%250mL 1本で約250kcal、20%250mL 1本では約500kcalと記載されていますが、添加物の濃グリセリンのカロリーが含まれているためと思われます。
微量のビタミンKを含む
大豆油に由来するビタミンKを含んでいるため、ワーファリンを服用している患者さんに投与すると、ワーファリンの効果が減弱する可能性があります。
しかし、イントラリポスを点滴するような患者さんは経口で栄養摂取ができていないことが予想されますので、食事によるビタミンKの摂取がないため、ワーファリンの服用は避けるべきだと思います。
点滴速度に注意
添付文書には10%は「1日500mLを3時間以上かけて点滴静注する」、20%は「1日250mLを3時間以上かけて点滴静注する」と記載されています。
いずれも、1日のカロリーとしては500kcalとなります。
点滴時間が長すぎると感染の原因となる
3時間以上かけて点滴する、となっていますが、どれくらい時間をかければよいのでしょうか。
脂肪乳剤は高カロリーのため、細菌汚染が問題となります。
そのため、点滴ルートを刺す時にも、きちんとアルコール消毒をすることが重要です。
脂肪乳剤を混合した輸液に、真菌のカンジダを汚染させて経時的に菌の増殖をみた実験では、維持輸液などと比べ、24時間後、48時間後と経時的にその増殖が活発になったとの報告があります。
引用元:谷村弘ら、外科治療 34(2) 180-188 (1976)
点滴時間が長くなると細菌汚染が生じやすくなるという事がわかります。
点滴時間が短すぎると脂質代謝異常の原因となる
それでは、どのくらい点滴時間を短くすればよいのでしょうか。
点滴時間が短い、すなわち点滴速度が速いと、人口脂肪粒子が利用されず、血清トリグリセリド値が上昇し続けてしまうことになります。
脂肪として0.1g/kg/時間を超えない速度で点滴すれば血清トリグリセリド値は上昇しないと言われています。
引用元:月刊薬事 55(12) 125-132 (2013)
0.1g/kg/時間を超えない速度で投与する
10%250mLを点滴する場合、体重で割った値が目安の投与速度となると考えることができます。
体重50kgの場合、10%250mLは5時間かけて投与すれば問題ありません。
20%250mLを点滴する場合は、体重で割った値を倍にした値が投与速度となります。
体重50kgの場合、20%250mLは10時間かけて点滴すれば問題ありません。
他の注意点
可塑剤を使用した点滴ルートを使用しない
可塑剤であるDEHPを含む点滴ルートを使用した場合、DEHPが溶け出してしまうことがあるため、DEHPを含まない点滴ルートを使用することが望ましい、と添付文書に記載されています。
「望ましい」とあいまいな記載ですが、そもそも、DEHPが体内に入るとどのようなもんだいてんがあるのでしょうか。
DEHPは環境ホルモンといわれるもののひとつで、体内に入ると生殖機能に影響を与えるおそれがあるためです。
必ず生じるというものではありませんし、特に高齢者の場合は、生殖機能への影響はあまり気にしなくでもよいのではないかと思います。
輸液セットの接続部にひび割れが起こる可能性がある
これはイントラリポスに限らず、プロポフォールなど脂肪乳剤全般に対していえることですが、接続部がポリカーボネートでできている輸液セットを使用した場合、接続部にひび割れが生じることがあります。
そのため、フラッシュを必ずする必要があります。
配合変化の問題点:他の薬剤を配合しない
イントラリポスの点滴の中に他剤を混合することはしません。
乳化剤であること、カロリーが高く細菌汚染があった場合に繁殖しやすくなってしまい感染の恐れがあるためです。
エルネオパなど高カロリー輸液と併用することが多くありますが、エルネオパの側管から投与することは問題ありません。
しかし、フィルター付きの点滴ルートを使用する場合は、フィルターよりも患者側に接続しなければなりません。
もちろん、投与の都度点滴ルートを交換したり、フラッシュすることは必ず必要です。
まとめ
- 点滴時間は0.1g/kg/時間を超えない速度で投与する
- 10%250mL 1本は、体重で割った値の時間で投与する
- 20%250mL 1本は、体重で割った値を2倍した時間で投与する