【心原性脳梗塞の基本を理解する】第107回 薬剤師国家試験 問248、249を解説
では、心原性脳梗塞の発生原因である心房細動と、その治療薬について解説しました。
脳梗塞は、心原性脳梗塞と、アテローム性脳梗塞、ラクナ梗塞に分類されます。
今回は、アテローム性脳梗塞に関する問題の解説をしていきたいと思います。
まず、アテロームとは何なのでしょう。
アテロームとは、血管壁の内側に脂質や炎症性の物質が蓄積した塊のようなものです。
アテロームは動脈にできますが、アテロームが増えてくると動脈硬化の原因となり、血管が固くなって弾力が無くなってきてしまいます。
アテロームは、全身の主な動脈のどこにできてもおかしくありません。
心臓の血管(冠動脈)にできれば心筋梗塞や不安定狭心症の原因になりますし、脳動脈や頸動脈にできれば脳梗塞の原因となります。
アテローム性脳梗塞の治療薬は「抗血小板薬」になります。
心原性脳梗塞の治療薬は「抗凝固薬」でしたね。
抗血小板薬は、白色血栓と呼ばれる、動脈でできる血栓の治療に用いられます。
それに対して、抗凝固薬は赤色血栓と呼ばれる、静脈でできる血栓の治療に用いられます。
脳梗塞も心筋梗塞も、脳動脈や頸動脈、冠動脈というように、全て動脈に生じる血栓がもんだいとなります。
そのため、これらの治療には抗血小板薬が用いられます。
アテローム性脳梗塞の治療は抗血小板薬ということですね。
アテローム血栓性脳梗塞と診断された患者の設定ですね。
検査値としては、腎機能、肝機能、血小板数に関する値が記載されています。
クレアチニンクリアランスが20mL/minのため腎機能が低下していることが分かりますが、
親切にも設問に「医師は重篤な腎障害があると判断した」と記載されています。
どういう意図があるんだろう?と思ってしまいますが。
アテローム血栓性脳梗塞の再発抑制の目的で使用する際に、適切でない薬剤を選べばよいですね。
アテローム性脳梗塞の治療薬は「抗凝固薬」ではなく「抗血小板薬」ですね。
これが分かれば、正解は2の「ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩」とわかります。
他の考え方としても、この患者はクレアチニンクリアランスが20mL/minですので、ダビガトランは禁忌となります。
ダビガトランはクレアチニンクリアランスが30mL/minの患者では禁忌ですので、この患者には使用できません。
ダビガトランは過去にPMDAからブルーレター(安全性速報)が発出されていますので、こちらも確認してみるといいでしょう。
【プラザキサ(ダビガトラン) ブルーレター】 PMDAより引用
血小板凝集の際の機序に関する問ですね。
血液の凝固は、血小板による一次止血とフィブリンによる二次止血に分けられます。
一次止血は血小板凝集による止血で、それにフィブリンなどによって、さらに強固になるのが二次止血ですね。
血管が損傷されると、血管表面のコラーゲンが露出し、そこに血小板が付着します。
血管損傷部に粘着した血小板は活性化され、形態変化が起こり、ADPやトロンボキサンA2(TXA2)、血小板活性化因子(PAF)、セロトニンなどを放出します。
放出されたADPやTXA2、PAF、セロトニンは周りの血小板を活性化させ、さらに凝集が進みます。
また、これらの成分は血管を収縮させる作用もあります。
止血を行うため、と考えれば分かりやすいですね。
この血小板の塊に、フィブリノーゲンが作用することで、凝集塊は強固なものになり止血が進みます。
以上を踏まえて選択肢をみてみましょう。
「1 トロンボキサン A2は、血管内皮細胞から放出され、血小板凝集を抑制する。」
これはどうでしょうか。まず、TXA2は血小板から放出される物質で、さらに血小板凝集を促進させますので、間違いですね。
「2 損傷した血管壁内から露出したコラーゲンは、血小板凝集を抑制する。」
これはどうでしょうか。障害された血管壁内から露出したコラーゲンは血小板凝集を促進しますので間違いですね。
「3 活性化された血小板どうしは、フィブリノーゲンを介して結合する。」
これは二次止血に関する記載で、正解ですね。フィブリノーゲンにより血小板の凝集はより強固となります。
「4 プロスタグランジン I2は、活性化された血小板から放出され、血小板凝集を促進する。」
これはどうでしょうか。プロスタグランジンI2は血管内皮細胞から放出され、血小板凝集を抑制しますので、間違いですね。
「5 ADP(アデノシン 5ʼ-二リン酸)は、活性化された血小板から放出され、血小板凝集を促進する」
これは正解ですね。
ということで、正解は3と5になりますね。
アテローム性脳梗塞と心原性脳梗塞の病態や治療薬の違いを、正しく理解しておきましょう。
また、抗血小板薬と抗凝固薬の違いも、きちんと理解しておきましょう。