脳梗塞は、アテローム性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳梗塞の3つに分類されます。
アテローム性脳梗塞とラクナ梗塞は治療薬として抗血小板薬が用いられます。
が、心原性脳梗塞は発生機序が異なるため抗血小板薬ではなく、抗凝固薬が用いられます。
心房細動が原因となり生じる脳梗塞を心原性脳梗塞といいます。
心房細動は、本来は一定のリズムの電気活動で動く心房が、無秩序に電気活動をしてけいれんしている状態を指します。
そのため、規則的な脈ではなく、不規則な脈となってしまいます。
通常は、洞房結節が1回興奮すると、それに対して心室が1回拍動します。
しかし、心房細動では洞房結節以外のところでも電気信号が発生してしまい、その刺激が心室に伝わって頻脈を生じます。
心房は正しく収縮せず、けいれんをおこしているような状態のため、心房内の血液が滞留し、固まりやすくなります。
そこで生じた血栓が脳内の血管に飛んで詰まることで心原性脳梗塞を生じます。
心房細動が続くと、頻脈が原因で心不全の原因となることがあります。
以前は、ジギタリス製剤が使用されていましたが、現在はβblockerが多く使用されます。
心不全の治療も同様に、昔はジギタリスが使用されていましたが、最近はほとんど使用されません。
ジギタリスは馬に鞭を打つような、心臓を酷使するような薬のため予後を考えるとよくありません。
レートコントロールの主流はβblockerです。カルベジロールとビソプロロールが多く使用されています。
ジソピラミドやピルシカイニドのような抗不整脈薬はレートコントロールには適していません。
抗不整脈薬はリズムコントロールに用います。
心房細動の治療薬として抗凝固薬が用いられますが、これは心房細動によって2次的に生じる脳梗塞(心原性脳梗塞)を予防する目的で使用されます。
CHADS2スコアといって、心不全(1点)、高血圧(1点)、糖尿病(1点)、75歳以上(1点)、脳卒中の既往(2点)、の各項目で点数をつけていき、いずれかに当てはまれば抗凝固薬の投与が勧められます。
抗凝固薬はワルファリン、ダビガトラン、エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバンが選択肢としてあります。
ワルファリン以外のDOACは腎機能が低下している患者さんでは使用できませんので、そのような場合はワルファリンを使用します。
腎機能に問題がなければ、ワルファリンのように採血結果を見ながら用量を設定したり食事や医薬品との相互作用が、それほど問題にならないDOACを使用します。
非薬物療法として、異常な電気信号を発している細胞を焼き切るような焼灼術(アブレーション)をおこなうこともあります。
カテーテルアブレーションが成功すれば、上記のβblockerや抗凝固薬などの薬物治療は不要となります。
心房細動、心原性脳梗塞で入院した患者が、入院時にβblockerであるカルベジロールが開始となり、退院時にDOACであるエドキサバンが追加となる、といった設定ですね。
問いは、カルベジロールもしくはエドキサバンの薬理作用に当てはまるものをえらべ、といったものですね。
1から5までの選択肢は、いずれも血小板や血液凝固に関する薬理作用の内容ですので、エドキサバンの薬理作用を選べばよいですね。
DOACは、別名「Xa(テンエー)阻害薬」と呼ばれています。
すなわち、プロトロンビンからトロンビンを生成し、フィブリン形成を促進することにより血栓を形成する凝固因子Xaを阻害するのがエドキサバンですね。
問248の正解は3の「第 Xa 因子を阻害して、トロンビン産生を抑制する。」になります。
1の「アデノシン P₂Y12 受容体を遮断して、血小板凝集を抑制する。」は抗血小板薬のクロピドグレルやプラスグレルの作用機序ですね。
2の「ビタミン K の代謝サイクルを阻害して、血液凝固を阻害する。」は抗凝固薬の中でもワルファリンの作用機序ですね。そのため、ワルファリン服用中はビタミンKの摂取は禁止されています。
DOACはビタミンKとは無関係のため、ビタミンKの摂取は制限されません。
4の「トロンボキサン A2 の合成を阻害して、血小板の活性化を阻害する。」は抗血小板薬のアスピリンやオザグレルNaの作用機序ですね。
5の「プラスミノーゲンをプラスミンに変換して、血栓中のフィブリンを分解する。」は脳梗塞の超急性期に使用するt-PA(組織型プラスミノーゲンアクチベータ)と言われる医薬品の作用機序ですね。
いずれも、脳梗塞の治療に関連はありますが、DOACの作用機序とは異なります。
薬剤師として、介入するとしたら何があるか、といった問ですね。
先にも述べましたが、全てのDAOC使用時の注意点として、腎機能低下時には減量が必要になります。
エドキサバンは、まず体重を確認します。
体重が60kg以上であれば、腎機能が正常の場合60mgですが、体重60kg未満の場合は腎機能が正常でも30mgへ減量が必要です。
この患者さんは体重は60kg以上ですが、クレアチニンクリアランスが42mL/minと腎機能が低下しています。
エドキサバンはクレアチニンクリアランスが30<Ccr<50の場合、30mgへ減少しなければなりません。
そのため、この患者さんは腎機能を考慮しエドキサバンは30mgへ減量する必要がありますので、2の「エドキサバンを減量する」が正解となります。
もう1つの回答を考えてみましょう。
設問を見ると、心拍数110拍/分と頻脈ですね。カルベジロールを増やしてもよいのではないかと思います。
しかし、選択肢の1は「カルベジロールを減量する」となっていますので、これは明らかに違います。
3と5の「アスピリンを追加する」と「クロピドグレルを追加する」を選びたくなってしまいますが、この設問の患者さんは「心原性脳梗塞」ですので、抗血小板薬は治療に用いられません。
となると、残るは4の「アトルバスタチンを追加する」ですね。
たしかに、LDLが165mg/dLと高いためスタチンは必要かもしれません。
アテローム性脳梗塞であれば必須ですが、心原性脳梗塞ですので悩ましいところですが、この選択肢の中で考えるとしたら、4が正解になるのでしょう。
今回の問題は、心原性脳梗塞の治療に関する問題でしたね。
選択すべき治療薬と、その薬理作用が理解できていれば解ける問題だと思います。
関連して、アテローム性脳梗塞や、ラクナ梗塞の治療についても、正しく理解しておくとよいですね。