私が以前から思っていた疑問。
なぜ、ナウゼリンは経口投与の場合は成人で1回10mgなのに、坐薬では3歳未満の小児で1回10mgなのか?
2歳児が坐薬で使用するような量を大人が飲んで効果が発揮されるのか?と疑問に思っていました。
通常、初回通過効果が高いなど経口でのバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が低い薬剤は、坐薬にすることで初回通過効果などを避けることができ、用量を減らすことができる薬剤があります。
しかし、ナウゼリンはその逆で、錠剤よりも坐薬の方が用量が多くなっています。
投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標。生物学的利用率(体循環液中に到達した割合、extent of bioavailability)と生物学的利用速度(rate of bioavailability)で表される。
日本薬学会HP 薬学用語解説 より引用
通常、静脈内投与した場合の血中濃度と比べ、経口投与した場合の血中濃度がどれくらいに相当するか、を比較する場合にバイオアベイラビリティが用いられます。
通常、薬剤を経口投与した場合、消化管から吸収されて、血液中に移行していきます。
そのため、消化管から吸収されにくい薬剤はバイオアベイラビリティが下がってしまいます。
糖尿病薬のアカルボースやボグリボースといったαグルコシダーゼ阻害剤や、高アンモニア血症の治療などに使用するラクツロースは、基本的に消化管から吸収されないため、バイオアベイラビリティはほぼゼロとなります。
狭心症発作の治療薬で使用されるニトログリセリンは内服してしまうと、消化管から吸収されたあとに初回通過効果を受け、ほぼ100%が肝臓で代謝されてしまうため、効果が発揮されません。
そのため、舌下錠として使用することで初回通過効果を回避しています。
他にも初回通過効果が高い薬剤としては禁煙補助剤のニコチンなどがあります。
ニコチンも普通に内服してしまうと初回通過効果を受けてしまうため、貼付剤やガムとして口腔粘膜から吸収されるよう剤型の工夫がされています。
これらのことを踏まえると、消化管で100%吸収され、初回通過効果の影響を全く受けない薬剤の場合、理論上ではバイオアベイラビリティは100%となり、経口投与でも静脈投与した場合と同じ血中濃度が得られることとなります。
それでは、ナウゼリンのバイオアベイラビリティはどうなのでしょうか。
ナウゼリンのインタビューフォームによると、経口投与した時のバイオアベイラビリティは12.7%と非常に低くなっています。
そして、直腸内投与した時のバイオアベイラビリティも12.4%となっています。
どういうこと??と思ってしまいます。
ナウゼリン坐剤60mgを直腸内投与した場合の最高血中濃度(Cmax)は43.3ng/mLとなっています。
それに対し、ナウゼリン錠10mgを経口投与した場合のCmaxは11ng/mLと、6倍量を直腸内投与した場合の血中濃度の約4分の1と非常に低くなっています。
血中濃度が低いのに、経口投与よりも坐薬の方が用量が少ないとなると、ますます分からなくなってきてしまいます。
それでは、なぜ坐剤と比べ錠剤の方が用量が低いのでしょうか。
ナウゼリンは脳内のCTZ(chemoreceptor trigger zone 化学受容器引き金帯)に作用し、制吐作用を示します。
その他に、胃に直接作用し胃運動亢進作用や胃内容排出促進などの作用もあります。
この、直接作用することが重要なようです。
経口投与した場合は、吸収された後にCTZに作用し制吐作用を示すだけでなく、吸収される前には胃で直接作用し胃内容排泄促進し、これらの相乗効果で制吐剤として有効なようです。
この胃での直接作用による効果のため、経口投与では少ない量で、直腸投与と比べ低い血中濃度であっても十分な効果が期待できます。
ナウゼリンの用量が直腸投与と比べ経口投与の方が少ない理由として、胃における直接作用により胃運動亢進作用や胃内容排出促進作用があるため、直腸内投与と比べ低い血中濃度でも十分な効果が得られる、ことが挙げられます。
ナウゼリンの副作用として錐体外路症状がありますので、むやみに血中濃度を上昇させない方がよい、といった考えもあると思います。