コートリル錠(ヒドロコルチゾン)を服用している患者さんを時々みかけます。
もし、このような患者さんが手術目的で入院してきたら注意が必要です。
主治医も承知していれば問題ないのですが、薬剤師や看護師も確認が必要です。
コートリル錠は、副腎皮質ホルモン(ステロイド)であるヒドロコルチゾンの錠剤です。
1錠に10mgのヒドロコルチゾンが入っています。
ステロイドにはプレドニン(プレドニゾロン)やリンデロン(ベタメタゾン)、デカドロン(デキサメタゾン)などがあります。
コートリル(ヒドロコルチゾン)と他のステロイドは何が違うのでしょうか。
ステロイドは主に抗炎症作用の強さで比較されます。
その基本となるのがコートリル(ヒドロコルチゾン)です。
コートリルの抗炎症作用を1とした場合、プレドニンの抗炎症作用は、その4倍とされています。
リンデロンやデカドロンの抗炎症作用はコートリルの約25倍とされています。
これを考えると、コートリルの抗炎症作用は非常に弱いこととなります。
健常人の生体内では、どれくらいの量のコルチゾール(ステロイド)が分泌されているのでしょうか。
1日、体表面積当たり5~10mgのコルチゾールが分泌されているといわれています。
このことから、1日当たり、おおよそ15~20mgあたりのコルチゾールが分泌されていることになります。
これをコートリル錠で考えると、1日1.5錠~2錠を服用することになります。
コートリル錠を、朝1錠、昼もしくは夕に0.5錠服用している患者を時々みかけます。
このような患者は、どのような既往歴があると考えるべきでしょうか。
先ほどの、生体内でのコルチゾール分泌量を考えてみましょう。
コートリル錠を朝1錠、昼0.5錠服用している場合、ヒドロコルチゾンとして1日15mg服用していることになります。
これは、生体内でのコルチゾール分泌量に相当します。
何か炎症性の疾患があってステロイドを服用する場合と比べ、非常に少ない量です。
このような量でコートリルを服用している場合は、下垂体摘出後や副腎機能低下などの既往が考えられます。
下垂体摘出後や副腎機能低下の場合、副腎からコルチゾールが全く分泌されません。
通常、手術などで大きなストレスがかかると、生体内では副腎から副腎皮質ホルモンが分泌されて、血糖値を上昇させたり血圧を上昇させたりして、生命を維持するために働きます。
しかし、下垂体摘出後や副腎機能低下の場合、大きなストレスがかかっても副腎皮質ホルモンが分泌されないため、低血糖を生じたり血圧低下が生じたり、意識レベルが低下したり、ということが起きます。
そのため、これを防ぐために、下垂体摘出後や副腎機能低下の患者が手術をする場合は、ヒドロコルチゾンの注射剤を術後から一定間隔で補充する必要があります。
ヒドロコルチゾンの注射薬としては、ソルコーテフやサクシゾンがありますので、これらを使います。
少し古いですが、周術期のステロイド補充(ステロイドカバー)の論文を紹介します。
PereiraO,BevanJS: Preoperative assessment for pituitary surgery.Pituitary: 11, 347−351,2008.
手術の麻酔導入時にヒドロコルチゾン50mgを静注する。
術後、1日目は50mgを8時間ごとに静注する。
2日目は20mgを8時間ごとに静注する。
となっています。
手術は人体には大きなストレスですので、そのストレスに応じたコルチゾールを静注して補ってあげる必要があります。
もし補充をしないと、術後に血圧が低下したり血糖値が低下したりと、バイタルが安定しないため非常に危険です。
コートリルを朝1錠、昼もしくは夕に0.5錠服用している患者は下垂体摘出後や副腎機能低下が考えられます。
このような患者が手術になった場合は、術後のステロイド補充(ステロイドカバー)は必須です。
術後の注射オーダーを確認し、ソルコーテフやサクシゾンのオーダーがなければ医師へ処方提案してください。
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