嚥下機能の低下や、消化管障害などの問題で、経口での栄養摂取ができない場合、本来ならば経鼻胃管から濃厚流動食を投与し、消化管を使った栄養摂取が望ましいのですが、様々な理由で末梢点滴で栄養摂取をすることがあります。
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そのように、末梢点滴での栄養投与を、「末梢静脈栄養(PPN:peripheral parenteral nutrition)」といい、ビーフリード輸液はPPN製剤として使用されます。
ビーフリード輸液は、糖とアミノ酸によるメイラード反応を防ぐために、隔壁を用いて2層に分かれています。
隔壁の開通を忘れて、下室のみ投与してしまった…なんて経験をした人もいるかもしれません。
開通を忘れて問題となるのはカリウム濃度ですが、結論を言うと、下室のみ投与してしまっても問題ありません。
また、点滴時間は添付文書には、「500mLあたり120分かけて点滴する」とあります。
意外と知られていないかもしれませんが、点滴時間が長くなるとBacillus cereusによる感染が問題となるので注意が必要です。
ビーフリード輸液の特徴
もともと、PPN製剤として水分、糖、電解質、アミノ酸を配合したアミノフリードが発売されていましたが、アミノフリードにビタミンB1を加えた製剤として、2008年にビーフリード輸液が発売されました。
水分、糖、電解質、アミノ酸、ビタミンB1の配合剤
嚥下状態が悪かったりと、何らかの原因で食事摂取ができない場合や、手術後で食事摂取ができない場合に、PPN製剤として使用されます。
3号輸液のような維持輸液は水分、糖、電解質のみですが、これにアミノ酸を加えたアミノフリードが以前は使用されていました。
ビタミンB1が不足するとウェルニッケ脳症を生じてしまうことがあるため、アミノフリードにビタミンB1が追加され、ビーフリード輸液が発売されました。
隔壁があり2層に分かれている
糖とアミノ酸が反応すると、メイラード反応を起こして着色してしまうため、上室にアミノ酸、下室に糖と2層に分かれています。
そのため、使用時には隔壁を開通してから使用しなければなりません。
開通忘れがないよう、赤字で「開通確認」と大きく記載されています。
以前は、カリウムが上室にのみ入っていたため、隔壁を開通せずに下室のみ投与してしまい、あとで上室のみ投与すると、高濃度のカリウムを点滴することになってしまいましたが、現在は上室と下室に分けて入っています。
隔壁開通時のカリウム濃度は20mEq/Lですので、3号輸液と同じです。
糖濃度は7.5%
糖濃度は7.5%とやや高めですので、血管痛や血管外漏出に注意が必要です。
ソリタT3G輸液などと同じ糖濃度ですね。
糖濃度は、KN3号輸液よりも高く、KNMG輸液よりも低くなります。
総カロリーは500mL 1袋で210kcal
糖濃度が7.5%ですので、糖だけのカロリーは500mLで150kcalとなります。
アミノ酸も入っていますので、その分のカロリーも入れて、総カロリーは500mLで210kcalとなります。
1袋500mLの製剤と1袋1000mLの製剤がある
ビーフリード輸液は1袋500mLの製剤と1袋1000mLの2種類が発売されています。
最大投与量は2500mLまでとなっていますので、1000mL以上投与することが多ければ1000mL製剤があると便利、と思うかもしれませんがお勧めしません。
おすすめしない理由については、注意点の所で説明します。
ビーフリード輸液投与時の注意点
下室のみ投与してしまった場合は…
隔壁の開通を忘れて下室のみ投与してしまった…という経験をしたことがあるかもしれません。
上室には主にアミノ酸と電解質が、下室には主にブドウ糖と電解質が入っています。
隔壁の開通を忘れて投与してしまった場合、問題となるのはカリウム濃度です。
うっすらとした記憶ですが、以前は、上室と下室に同じ濃度でカリウムが入っていた気がします。もしくは、下室のカリウム濃度が高かった記憶があります。
カリウムが急速に投与されると心停止の原因になってしまいます。
そこで、開通を忘れて投与してしまった場合、下室だけ投与されるため、下室のカリウム濃度は低くなっています。
カリウムは下室に12mEq/L、上室に38mEq/L含まれています。
開通すると、20mEq/Lになる計算です。
万が一、下室だけ投与してしまっても、カリウム濃度は低いため不整脈などが生じる危険性は低くなります。
逆に、残ってしまった上室だけ投与するのは、カリウム濃度が高いため危険です。
血管痛に注意が必要
糖濃度が7.5%とやや高めのため、血管痛が生じることがあります。
できるだけ太い血管で点滴することをお勧めします。
血管外漏出(点滴漏れ)に注意が必要
ビーフリード輸液の添付文書に「血管外漏出が原因と考えられる皮膚壊死、潰瘍形成が報告されているので、点滴部位の観察を十分に行い、発赤、 浸潤、腫脹などの血管外漏出の徴候があらわれた場合には、直ちに投与を中止し、適切な処置を行うこと。」と記載されています。
【重要】点滴時間に注意が必要 Bacillus cereusの汚染に注意!!
Bacillus cereusを含むBacillus属は、環境に常在している細菌で、グラム陽性桿菌に分類されます。
25~37℃で急速に増殖し、乾燥状態では芽胞を形成し生き残ることができます。
そのため、リネンや清拭タオルなどから点滴ルートの管理が不適切な場合に感染症を引き起こす恐れがあります。
2019年9月には日本臨床栄養代謝学会から、「【周知依頼】医療機関における Bacillus cereus の 院内感染 事例 について」として輸液ラインの適切な管理について注意喚起がされています。
点滴接続時の十分な消毒が必要なのはもちろんですが、アミノ酸製剤とBacillus cereusによる院内感染の関連性も示唆されています。
【医療機関におけるBacillus cereusの院内感染事例について】
以前、ビーフリード輸液を点滴している患者の点滴ルートが白く濁って詰まってしまった、と看護師から相談を受けたことがありました。
まるで点滴ルート内で配合変化を起こしたように白濁していましたが、使用していた点滴はビーフリード輸液の単独投与のみで配合変化が起こるような状況ではありませんでした。
この白濁した浮遊物を検査室で調べてもらったところ、なんとBacillus cereusだったのです。
いろいろと調べてみると、ビーフリード輸液を使用している患者では、上記のようにBacillus cereusによる汚染が起きやすいということが分かりました。
点滴時間が長くなるほどBacillus cereusによる感染率が上がるとの報告もあるため、私が所属する施設ではビーフリード輸液の1000mL製剤の採用をやめました。
また、ビーフリード輸液500mL 1本あたりの点滴時間を8時間まで、と院内で規定し、逸脱する処方が出た際には、我々薬剤師が医師へ疑義照会するルールを設けました。
このようなルールが設けられるまでは血液培養でBacillus cereusが検出される事例が散見されていましたが、点滴時間を守ることでBacillus cereus陽性の患者はほぼゼロとなりました。
セフトリアキソンとの配合変化に注意
セフトリアキソンはカルシウムを含む輸液と混ざることで沈殿を生じる可能性があります。
ビーフリードはカルシウムを含むため、側管からセフトリアキソンを投与する場合は、ビーフリードをロックして、生食などでフラッシュしてからセフトリアキソンを投与するのが望ましいと思います。
まとめ
- 隔壁の開通を忘れても、カリウム濃度などが問題とならないよう濃度が調節されています。
- ビーフリード輸液は点滴時間が長くなるとBacillus cereusによる感染率が高くなります。
- 500mLあたり2時間かけて点滴するのが理想的です(自施設では8時間以内としています)
- ビーフリード輸液1000mLを採用している施設は、採用の中止を検討してみてください
- 血管痛に注意が必要です。
- セフトリアキソンとの配合変化に注意が必要です。
ビーフリード輸液の点滴時間について、薬剤師が疑義照会する院内のルールが決められるといいですね。
薬剤師らしい仕事ができると思います。